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2009年9月 6日 (日)

第3回「カミカゼ・サッカー」への不安(9月5日@エンスヘーデ) (記事スクラップ)

宇都宮徹壱のオランダ日記
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/2009/text/200909060004-spnavi_1.html

■オランダ人にとっての「日本戦」とは?
試合開始前の2時間半前、午前11時30分にオランダ戦が行われるアルケ・スタディオンに到着。すでに会場の周りはオレンジ色のレプリカユニホームを着たオランダサポーターが続々と集結していた。さっそく手当たり次第に、今日の予想スコアを聞いてみる。10人に聞いた結果は「3-0」と「2-1」が3人ずつ、あとは「4-0」「3-1」「2-0」「1-0」が1人ずつ。もちろん全員が自国の勝利を予想していた。オランダの得点が意外と少ないことについては「やっぱりフレンドリーマッチだから」。では日本の得点者は誰かと聞くと全員が「本田(圭佑)」と答えていた。

「間違いなくウチが勝つけど、日本が点を決めるとしたら本田だろうね」というのが、どうやらこの国における模範解答らしい。もっとも、得点者として本田の名が出てくるのは、当地で有名な2人の日本人選手の1人であるからにほかならない(ちなみにもう1人は、言うまでもなくフェイエノールトで活躍した小野伸二であり、私は数人のオランダ人から「小野はどうしている? 元気なのか?」と尋ねられた)。要するに、オランダにとっての日本に対する知識と認識は、その程度のものでしかないのである。残念ながら。

 もうひとつ、具体的な例を出そう。今週発売された日本のサッカー専門誌『サッカーマガジン』と『サッカーダイジェスト』は、表紙も巻頭もオランダ戦一色。まさに「総力特集」といった感がある。では、オランダの専門誌はどうだったか。現地在住のライター、中田徹さんが見せてくれた「フットボール・インターナショナル」最新号は、表紙もトップ記事も国内リーグの選手で占められており、日本戦の記事は申し訳程度に中ほどに半ページほどの扱いであった。はっきり言ってオランダ女子代表よりも、ニュースとしてのバリュー(価値)は下なのである。こうした事実を突きつけられると、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングの差以上に、何とも落胆させられる。ちなみに最新のランキングでは、日本40位、対するオランダはブラジル、スペインに次ぐ3位である。

 まあ、いい。厳しい試合になることは百も承知だ。しかしその上で、90分のうちの何分かは、日本がオランダを驚かせるプレーを見せてほしい。日本が本当にワールドカップ(W杯)で「世界を驚かせる」ためには、まずはこの日の試合で、ほんの一瞬でもいいから「オランダを驚かせる」べきである。問題はその瞬間を「どのくらいのクオリティーをもって」そして「どれだけの頻度で」見せることができるか、であろう。

■「本田ベンチ」に見る岡田監督の狙い

そんなわけで日本代表である。
 今回のオランダ戦は、6月17日にメルボルンで行われたオーストラリア戦(W杯アジア最終予選)以来のゲームとなる。6月の最終予選3試合は、1勝1分け1敗と息切れが目立った日本であったが、すでに南アフリカへのチケットを手にした今、目指すべきは「世界標準」に向けたチーム作り。本大会までの9カ月で、どれだけ戦闘能力を高めていくかが課題となる。そのためには、まずは世界との距離を確認しておかねばなるまい。

思えばアウエーで欧州の中堅以上の代表と対戦するのは、2007年9月11日の対スイス戦以来のこと。ただし、当時はまだイビチャ・オシム監督が健在であり、岡田武史体制になってからは、すべてのマッチメークが「まずはアジアを突破すること」に主眼が置かれていたのは、ある意味、仕方のないことであった。そうした意味で、このオランダ戦は間違いなく、岡田体制になって初めての「世界へのチャレンジ」となる。

 この晴れ舞台のスターティングメンバーは、以下の通りである。
 GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、長友佑都。MFはボランチに遠藤保仁と長谷部誠、右に中村俊輔、左に岡崎慎司、トップ下に中村憲剛。そしてワントップに玉田圭司。意外にも「オランダで最も有名な日本人」本田は、ベンチスタートであった。だが、よくよく考えれば「意外」ではないのかもしれない。GKの川島をを除けば、これはアジア最終予選での「ベストメンバー」である。すなわち「これまでやってきたことが、現時点でどれだけ通用するのか」という指揮官の思惑がストレートに感じられる布陣であったと言えよう。

 対するオランダは、ファン・ペルシ(アーセナル)がいる、スナイデル(インテル)がいる、デ・ヨング(マンチェスター・シティ)がいる、カイト(リバプール)がいる、そしてロッベン(バイエルン)がいる。しかもベンチには、フンテラール(ミラン)やファン・デル・ファールト(レアル・マドリー)といった面々が控えているのだ。何というぜいたくなラインアップであろうか。だが、ものは考えようである。こっちはテレビや雑誌で何度も見ているけれど、向こうはこっちのことをほとんど知らない。こうしたイメージのギャップは、時としてゲーム展開に予想外の結果をもたらすことがある。そんな、一縷(いちる)の望みを期待しつつ、14時にキックオフのホイッスルが鳴った。

■残り20分をどう戦うべきか?
この試合については、おそらく多くの方がすでに映像でご覧になっていることだろう。ゆえに今回は、試合後の岡田監督の会見をなぞりながら、試合のポイントとなる部分をあらためて振り返ってみることにしたい。

「日本の場合、個々としてではなくチーム全体として戦っていくことがどうしても必要ということだったんですが。(中略)ある程度、攻撃のビルドアップはできると。あとはゴール前での最後のところでスピードを上げることをトライしていかないといけない」

 前半の日本は、はるか格上のオランダに対して互角以上の戦いを見せていた。その要因を挙げるなら、前線から積極的なプレッシングをかけていたこと、セカンドボールをかなりの確率で奪取していたこと、攻守の切り替えが早かったこと、そしてスルーパスやサイドチェンジがよく通っていたこと、などが挙げられよう。前半終了間際には、相手に攻め込まれる時間帯もあったが、中澤と闘莉王のセンターバックコンビを中心に、守備的MFやサイドバックも的確にフォローに入り、事なきを得ていた。
 しかし一方で、シュートレンジでの精度の悪さ、そして思い切りの悪さは相変わらず。また、両サイドを個の力で突破できず、逆にピンチを招くシーンも見られた。前半、0-0で折り返したのは「上出来」と見ることもできるが、逆に「せめて1点、何とかならなかったか」というくらい、少なからずチャンスがあったのも事実である。

「玉田は決して悪かったから代えたわけではないです。本田のテストをしたかったというのがひとつありました」

 前半45分の「確認作業」にある程度の手応えを感じた岡田監督は、後半開始時点で本田をピッチに送り込む。本田が左MF、そして岡崎が玉田に代わってトップに押し出される。このメンバー変更は、おそらく既定路線だったのだろう(残念ながら本田は、ほとんどアピールできなかった)。対するオランダは、19分までに4枚のカードを切ってくる。うち内1枚はGKだったが、中盤の活性化という目的は明白であった。次第にスタミナ切れを起こすようになる日本に対し、オランダは生きのいい選手、それも普段ヨーロッパで活躍している選手たちが続々と送り込まれるのだから、たまったものではない。後半24分、ついにコーナーキックからファン・ペルシの左足がさく裂、オランダが先制する。

「崩されたわけではないけれど、どうしてもボールに詰め切れずにやられてしまうというのは、これは起こり得ることなんだなと」

 その後、後半28分にはスナイデルが、42分には途中出場のフンテラールが、いずれも目の覚めるようなシュートやクロスから鮮やかにゴールを決めて、試合の行方を決定付ける。結局のところ、日本の頑張りは70分間が限界であった。

「その前にどこかで(先制点を)入れられていたら、もっともたなかったと思いますし、コーナーキックのこぼれ球から点が入らなかったら、もっともっていたかもしれないです。まあ、90分持たないということだけは、大体予想がついていました」

 指揮官はそう語っているが、いずれにせよハイプレスを続けることによる、体力、気力、集中力の限界が70分前後に起こったのは、必然と見てよいだろう。では、残り20分を日本は今後、どう戦っていくべきなのか。岡田監督の結論は、はっきりしている。

「それ以外にわれわれが、目標(W杯ベスト4)を達成する道はないと。あれではもたないから、戦い方を変えるのではなくて、もつようにする。それだけです」

■精神力に依拠することの危険性
 ここで私は図らずも、オシム前監督のこの言葉を思い出す。
「選手は機械ではない。人間なのですよ」
 会見で発せられた言葉を、ことさらあげつらうことは、もともと本意ではない。それでも私には、この岡田監督の発言が「90分間、プレスをかけ続けられるマシンになれ」と選手に要求しているように聞こえて仕方がないのである。
 もちろん日本の現有戦力と、W杯本大会までに残された時間を逆算するならば、そのような答えが導き出されるのも、ある意味仕方のないことなのかもしれない。しかしながら、日本サッカーの進む道は、果たして選手が「マシンになること」なのだろうか。

 当の選手の言葉にも、耳を傾けてみるべきであろう。中村憲は「やみくもに(プレスに)行くんじゃなくて、向こうのセンターバックのボール運びを見て、自分が『行ける』と思ったときに行って、それを周りが連動して、というのを何回できるかだと思う」と、状況に応じた判断の必要性を語っていた。至極、当然な話だと思う。
 玉田は「前半のようにプレスをかけていれば、それほど差はないと思った」としながらも「ハイプレスのまま90分間プレーすることは難しい。行けるときは行って、休むときには休むようなメリハリを付けていかないと。それが日本の特徴でも、難しいものは難しい」と、偽らざる気持ちを吐露している。これまで、FWのレギュラーとして起用し続けてきた選手から、このようなコメントが発せられたことについて、指揮官はどのような判断を下すのだろうか。いささか気になるところではある。

 気になるといえば、もうひとつ。オランダが最終的に5人の選手交代をしたにもかかわらず、日本は本田と興梠慎三の2枚のカードしか使わなかったことが、どうにも気になって仕方がなかった。相手に押されまくっているのなら、中盤でフレッシュな選手を起用するとか、あるいは違ったタイプの選手(たとえば前田遼一)を試すとか、そういう判断はなかったのだろうか。この点について、なぜか会見で質問が出なかったので、久々に岡田監督に直接問うてみることにした。その答えは、こうである。

「今回、テストというのは戦い方以外では本田くらいで、ほかの選手はほとんど分かっていますので(中略)。それと闘莉王はちょっとへばっていましたが、それ以外、交代しないといけないくらい悪い、ということはなかったので(以下略)」

 この言葉を、私なりに解釈するとこうなる。すなわち、今後の日本代表は「90分間マシンのように戦える選手」を少数精鋭で鍛えていく――と。だがこれでは、まるで特攻隊の錬成のようではないか。仮に、そんなチームが完成した暁には、きっと諸外国から「カミカゼ・サッカー」と恐れられることだろう。序盤からペース配分など考えず、鬼気迫るプレッシングをかけ続け、体力が尽きたら日本男児の敢闘精神で戦い抜く。確かにサッカーの世界でも、時に精神力が必要であることは認める。しかしながら、それに依拠しすぎるとロクな目に遭わないことを、私たちは過去の歴史から学んでいるはずだ。

 今回のオランダ戦では、現状の日本の課題のみならず、指揮官が目指すサッカーの本質もあらわになった。もちろん岡田監督とて、実は会見での発言とは裏腹に、密かに軌道修正を模索しているのかもしれない。しかしながら、もしこのまま科学的な裏付けのない「精神論」を本大会まで追求しようというのであれば、今日のスコア以上に、ただただ打ちひしがれるばかりである。はっきり言おう。もしも日本が本当に「カミカゼ・サッカー」を指向するのなら、それはすなわち「未来を放棄する」ことと同義である、と。

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